図で理解する変換行列と表現行列
線形代数にある線形写像, 基底の変換行列, 表現行列などを理解するとき, 今どこの座標系にいるのか, 基底は変わったのか, ここはベクトル空間かという悩みに会います.
本稿では, 変換行列や表現行列を図で理解することを目的にします. 行列の掛け算が点の移動であることを意識すると, 理解しやすくなります.
ベクトル空間
空でない集合$V$に, 和 および スカラー倍 が定義されているとき, $V$を ベクトル空間, $V$の要素を ベクトルといいます. すなわち,
(i) $a, b \in V$に対して, $a+b\in V$
(ii) $a\in V$ と $k \in K$ に対して, $ka \in V$
が定義されているとき$V$をベクトル空間といいます.
- (注)
$K$が実数体のとき $V$ を実ベクトル空間, $K$が複素数体のとき$V$を複素ベクトル空間といいます.
数ベクトル空間
$n$次の列ベクトル$x={}^t\!(x_1 x_2 \ldots x_n)$の全体からなるベクトル空間を$n$次元数ベクトル空間といい, その要素$x$を数ベクトルといいます.
特に, $x_n$が実数のとき, 数ベクトル空間は実$n$次元数空間 $R^n$ といいます.
線形写像
$V$, $W$を$K$上のベクトル空間とします.写像$f: V \rightarrow W$が次の(i), (ii)を満たすとき$V$から$W$への線形写像といいます.
(i) $f(a + b)=f(a) + f(b) \quad (a, b \in V)$
(ii) $f(ka) = kf(a) \quad (a \in V, k \in K)$
特に $V=W$のとき,線形変換(一次変換)といいます.
図で考えていきましょう.
写像$f$によって,点$v(\in V)$を点$w(\in W)$移すとき,次の式で表せます.
図で表すと次のようになります.

また,$V=R^n, W=R^m$とするとき,$f$は行列$A(m \times n)$で表せます.

以上からわかるように, 移動元の点$v$の左から写像$A$をかけることで, 移動先である点$w$に移ります.

座標
$v$をベクトル空間$V$の任意のベクトルとし, ${\phi_1, \phi_2, \ldots, \phi_n}$を$V$の基底とします. このとき, $v$は, 以下のように$\phi_1, \phi_2, \ldots , \phi_n$の一次結合で一意的にあらわされます.
$x={}^t\!(x_1 x_2 \ldots x_n)$を, 基底${\phi_1, \phi_2, \ldots, \phi_n}$ に関する$v$の座標といいます.
図で考えていきましょう.
$\phi_1, \phi_2, \ldots , \phi_n$ を横に並べたものを新しく行列$\phi = (\phi_1 \phi_2 \ldots \phi_n)$としたとき式(\ref{eq:v}) は次のように変形できます.
このことから, $\phi$は, 座標$x$が属している数ベクトル空間$R^n$からベクトル$v$が属するベクトル空間$V$へ移す写像とみれます.

基底の変換行列
ベクトル空間$V$の二つの基底を $\Phi_A=\{\phi^A_1, \cdots , \phi^A_n\}$, $\Phi_B=\{\phi^B_1, \cdots , \phi^B_n\}$とします. $\Phi_A$から$\Phi_B$への基底の変換行列$P$は次のようになります(定義). ただし, $\phi_A = (\phi^A_1 \cdots \phi^A_n)$, $\phi_B = (\phi^B_1 \cdots \phi^B_n)$とします.
図で考えていきましょう.
今, ベクトル$v$に対して二つの基底$\Phi_A$, $\Phi_B$をとりました. 基底をいくつとろうが, 示しているのは一つのベクトル$v$です. ただ, 基底が二つあるので, 各基底ごとの座標(数ベクトル)は二つ現れます.

$v$について, 以下の二式が立てられます.
よって,
ここで, 式(\ref{eq:basis-trans})から, $P=\phi_A^{-1}\phi_B$なので, 上式は次のようになります.
上の式が意味するのは, 点$x_B$が行列$P$によって点$x_A$に移動することです. 図に入れるとこうなります.

表現行列
$V$, $W$ を $\mathbb{F}$上の有限次元ベクトル空間とし, $f:V \rightarrow W$を線形写像とします. $V$, $W$の基底をそれぞれ$\Phi=\{\phi_1, \cdots , \phi_n\}$, $\Psi=\{\psi_1, \cdots , \psi_m\}$とします. このとき, 以下の式を満たす行列$A$を$V$の基底$\Phi$, $W$の基底$\Psi$に関する$f$の表現行列といいます(定義).
図で考えていきましょう.
ベクトル空間$V$上のある点$v$が, 写像$f$によってベクトル空間$W$上の点$w$に移るとしましょう. 基底$\Phi$に関する$v$の座標を$x$, 基底$\Psi$に関する$w$の座標を$y$とします.
今までの, 線形写像の図示, 基底の変換行列の図示を踏まえて, 図示してみましょう.

$y$が$\psi$で$w$に移されることから, $w=\psi y$が成り立ちます. 両辺に$\psi^{-1}$をかけて, $y=\psi^{-1} w$が成り立ちます. では, ここから右辺に$x$が出るまで, 展開していきます.
次に$f(\phi x)$の内部を展開していきます.
また, 表現行列の定義式(\ref{eq:rep})の両辺に$\psi^{-1}$をかけて, 次式を得ます.
式(\ref{eq:rep-sub-1}), 式(\ref{eq:rep-sub-2})から,
上の式が意味するのは, 点$x$が表現行列$A$で点$y$に移ることです. 図示すると次のようになるでしょう.

全体像
諸定理
$f: V \rightarrow W$を線形写像とする. $f$の$V$の基底$\Phi_A = \{\phi^A_1, \cdots , \phi^A_n\}$, $W$の基底$\Psi_B = \{\psi^A_1, \cdots , \psi^A_m\}$ に関する表現行列を$A$, $f$の$V$の基底$\Phi_B = \{\phi^B_1, \cdots , \phi^B_n\}$, $W$の基底$\Psi_B = \{\psi^B_1, \cdots , \psi^B_m\}$ に関する表現行列を$B$とすると, $B=Q^{-1}AP$となる. ただし, $P$は$\Phi_A$から$\Phi_B$への基底の変換行列, $Q$は$\Psi_A$から$\Psi_B$への基底の変換行列とする.
もう一度全体像を見ます.

$x_B$から$y_B$への移動に注目します.
また, $y_A = A x_A$より,
以上.